どこまでも白い夏

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先生は両手にコーヒーの入った紙コップをもって席に来ると、一つを僕の前に置いた。 「ありがとうございます」 いいえ、と言って彼は自分のコーヒーを一口、口に含む。 「それで、僕になにか?」 彼が一向に話し出さないので、僕の方から話を切り出した。正直、今は中年男性とゆっくりコーヒーを飲む気分ではない。早く話を済ませて帰りたかった。 「あーうん」 彼は一息にコーヒーを飲み干すと、僕に尋ねた。 「君は小森さんとは親しいのかい?」 親しい、と断言することには少しばかり抵抗があった。 僕が彼女に好意を寄せているのは事実だし、仲も良いと思っている。 でも、それは僕が一方的に感じているだけであって、つまるところ彼女が僕をどう思っているかなんて全然分からない訳で。 だから、 「まあ程々には……」 と、僕は曖昧に返答した。 「そうかい」 先生はなんとも言えない複雑な表情をしていた。笑いながら泣き出しそうな、そんな顔だった。 「彼女はご両親が忙しくてね、めったに会いに来ないんだ」 「そうなんですか……」 「だからなのかな。君がよく来るようになってから彼女は明るくなったよ」 僕の中の小森晴は常に明るい女の子だったので、その言葉には少し驚いた。 今日、僕は元気の無い彼女に戸惑ったけれど、もしかしたら僕と出会う前の彼女はあれが普通だったのかもしれない。
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