どこまでも白い夏

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夏休みも終わりに差し掛かった8月の末。その日は、久しぶりに大雨が降っていた。 なんでも台風が近づいて来ているらしい。 僕は傘をビニールに入れてエレベーターに乗ると、それはいつものようにスムーズに上昇し、チンと音を立てて5階に停まった。 ドアが開いて降りたところで、僕はすぐに異変に気付いた。 いつも一人は必ず待機してる受付に、看護師さんが見当たらない。 耳を澄ますと、ドタバタと慌ただしい音が聞こえてきた。 僕は音のする方向へと視線を向ける。 心臓がドクン、と脈打った。 あの方向は。 彼女の病室がある方ではなかったか? 嫌な予感が全身を駆け巡る。 吹き出す汗を拭うこともせず、一歩ずつゆっくりと彼女の病室へ向かう。 談話室が見えた。この角を曲がれば彼女の病室は目と鼻の先だ。 「鈴村くん!」 切羽詰まった声が僕を呼び止めたのは、僕が曲がろうとしたまさにその時だった。 振り返ると、最初にお見舞いに来た時に受付にいたあの看護師さんが立っていた。 「鈴村くん……」 彼女は今にも泣き出しそうな、そんな表情をして再び僕の名前を呼んだ。 この時に僕は全てを察した。 体から力が抜けていく。持ってきた千年堂の紙袋が腕からするりと落ちた。
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