どこまでも白い夏

14/17
前へ
/17ページ
次へ
看護師さんが口を開く。 やめてくれ、言わないでくれ、そんな思いが胸に込み上げる。 叫び出しそうになる自分を、僕は必死に押さえつけた。 でも。 「晴ちゃんが──」 そこまでだった。辛うじて僕を繋ぎ止めていた糸がプツンと切れた。 僕はその続きが紡がれる前に、全速力で病室とは反対の方向に駆け出した。 途中、看護師さんがもう一度僕を呼び止めた気がしたが、もうそんなことは関係なかった。 とにかくこの場所から離れたかった。この空間に居たくなかった。 下の階に行ってしまったエレベーターを待つ事すら、その時の僕には出来なくて、階段を転げ落ちるように降りていった。 その後の事はよく覚えていない。 ただただ廃人のように家のベッドに座って、ゲームのタイトル画面を眺めていたような気がする。 その日から僕は病院に行くのをやめた。 その内に夏休みが明けて、僕は慌ただしい学校生活に戻ったが、それでも心にポッカリと空いた穴が塞がることはなかった。 "夏なんてなくなればいいのに"。そう言う彼女の声だけが、僕の頭の中をぐるぐると回っていた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加