どこまでも白い夏

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* 頬を伝うぬるい液体の感触で僕は目を覚ました。 枕がびしょびしょなのは、きっと寝汗のせいだけでは無いだろう。 あの夢を見るのは久しぶりだなぁ、と僕は思った。 あの夏から数えて、5度目になる夏が日本列島には到来していた。 高校生だった僕は気付けば、翌年には就職を控える歳になっていた。 ちらりと自分の横に敷かれた布団を見る。中はもぬけの殻でピンクの可愛らしいリュックサックだけが置いてあった。 ああ、そういえば今日はハイキングに行く約束をしてたっけ、と僕は思い出す。 その時だった。 「もう圭一さんたら、いつまで寝ているんですか!起きてくださいー」 襖を挟んだその向こうから鈴を転がしたような声が聞こえてくる。 「起きたよー」 と、僕が答えると、襖がガラガラと音を立てて開いた。 その向こうには可愛らしく頬を膨らませた、小森晴が立っていた。 「今日は遠出するんですから早く出ないと」 「うん、すぐに支度するよ」 僕がそう言うと、彼女は嬉しそうにパァと笑った。 彼女は生きていた。 あの日、看護師さんの話をろくすっぽ聞かずに病院を飛び出した僕がその事実を知ったのは、彼女が退院した後に僕の家を訪ねてきた時だった。 泣きじゃくる僕を見て、勝手に殺さないでくださいよー、て彼女は笑っていたっけ。 彼女の話によれば僕が最後に病院に行ったあの日、確かに彼女は発作を起こして危ない状態にあったらしい。
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