どこまでも白い夏

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しかし、彼女が発作を起こしたのとまったく同じタイミングで、ドナーが見つかったのだ。 それも拒絶反応の限り無く低い、フルマッチのドナーが。 それはもう本当に奇跡と言う他なかった。 3年ほど前に彼女にその事を言ったら、彼女は困ったように曖昧に笑った。 「奇跡って呼ぶのはちょっと嫌なんです」 なんで?と僕が問い返すと彼女は答えた。 「私が助かったって事は、ドナーが見つかったって事は、あの時他の誰かが死んでしまったって事でしょう?その時、きっとその人の大切な人は物凄く悲しんだと思うんです。私のドナーて事は若い人だろうし、友達とか恋人とかそれこそたくさん」 「……そうかもしれないね」 「そうやって多くの人の悲しみの上に成り立った"偶然"を、"奇跡"だなんて呼んじゃいけないと思うんです」 そう言って彼女は複雑に笑ったまま僕を見つめた。 ああ、彼女は優しすぎるから、誰かの犠牲の上に生き長らえた罪悪感が、一生彼女を苦しめ続けるのだろう、とその時僕は思った。 それなら僕は、その苦しみにそっと寄り添おうって、一緒に泣こうって、そう思えたんだ。
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