どこまでも白い夏

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「準備できましたかー?」 玄関の方から聞こえた彼女の声で僕は現実に呼び戻される。 過去の感傷に浸って何も準備していなかった僕は、慌てて服を着替えると、自分と彼女のリュックサックを持って玄関に向かった。 退院してからの彼女は、まるでそれまでの時間を取り戻すかのように、色んな場所へ行き、いっぱい遊んで、いっぱい笑った。 特に夏は凄まじくて、僕は海に山に川に森に引っ張り回された。 その度に僕は疲れ果てて、たまに"夏なんてなくなればいいのに"ってちょっと思う。 でも彼女の楽しそうな笑顔を見れば、すぐにそんなことはどうでも良くなってしまうのだ。 「早く早くー」 と彼女は手招きして僕を急かす。 「今いくよ」 と言いながら、僕はテーブルの上に置いてあるキーケースを手に取った。 そういえば彼女は前に、自分にとって夏の色は白だって言っていた。 あの時はまったくそんなことは考えなかったけど、今となっては白い夏というのもまんざら悪く無いんじゃないかと思う。 そこに毎年異なる色を塗っていって、僕らだけの色にしてしまえば良いのだから。 それはきっと青よりも緑よりも、もっと綺麗に違いないだろうから。 「じゃあ行こうか」 「はい!」 彼女が元気に頷いたのを見て、僕は玄関の扉を開ける。 騒々しい蝉の鳴き声と、茹だるような暑さと、そして。 どこまでも白い夏が僕らを待っていた。
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