第一章

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騒がしいアラームで目が覚めるが気分は最悪だ。 何年前のことだよ…。未練がましい自分が嫌になる。 そう、中学時代俺はゲイだと自覚してから、親友に恋をしていた。 もちろん気持ちを伝える気なんてなかったし、親友としてそばにいれるだけで満足だった。 だけど、もしかしたらあの友達が疑ったように、俺とあいつができていると見えていた人がいるかもしれない。 それはきっと恋心を抱いている俺のせいだから…。 本当は一緒の高校に行こうなって約束をしていたけど、試験当日俺は別の高校の試験会場にいた。 あいつと距離を置きたかった。親友のままでいたかったから。 でもこの気持ちを隠している時点で親友とは言えないけど。 高校は寮生活で、専門学校も1人暮らし、就職しても実家に帰ることはなく、それっきり会うことはなかった。 重たい体を起こして、準備を始める。 歯磨きをしながら、久遠 紫葉(くおん しば)様と書かれた封筒を見つめた。 今日から新しい職場だ。 今度は大丈夫だろうか?不安な気持ちを振り払うように少し長めの髪を気持ち分ける。 眼鏡もかけて少し早めに家を出た。 いろいろあって前の仕事は2年でやめた。 眼科に勤務していて、人と接することも多かった。 別に他人と話せないとかそんなことはないけれど、自分がつまらない人間だということはわかっている。 人間不信ではないと思うが、昔からどうしても人と目を合わせて話す、ということが苦手だった。自分の中を覗かれている気がするから。 転職することにしたのは、今回の店のチーフがうちにこないかと誘ってくれたのと、以前の職場で一部にゲイだとバレてしまい居づらかったのが大きな理由だ。 チーフは俺がゲイだと知られている。 でも変なレッテルを張ることなく、以前と同じように接してくれた。 雲ひとつない空からそそぐ春の日差しを浴びながら、緊張感と少し晴れやかな気持ちで向かう。
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