第一章

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「あれ?何?知り合いだったの?」 桐野江さんが面白そうに歩いてきた。 伊月さんもこちらを見ている。 「そうなんです。専門学校の時のバイト仲間。久遠気づかないから人違いだと思った。」 桐野江さんは笑いながら 「へぇ、雨宮とずいぶん仲よかったみたいだね。結構雨宮は人の好き嫌いがはっきりしているからさ。」 「あーまぁ…。」 そのあとは仕事終わりに歓迎会と称し、居酒屋に行くことになった。 外食なんて久しぶりだな…。基本的に友達はいないし、家で空腹を感じたときに適当にすます感じだから、ご飯を食べにお店に行く!っていう考え方はリア充っていうか自分には関係ないことだと思っていた。 あれ、でも居酒屋って…お酒飲むんだよな? 確か…俺の記憶が間違ってなかったら…。 「ちょっとぉー、聞いてる?久遠!だからさぁー、…ほら、あんたも飲みなさいよー。」 そうだった…よな。あまちゃんに酒を飲ますな、ってバイト先の店長さんに言われたことがあった。 「あはは、雨宮さんって面白いな。ね?伊月くんどう?久遠君は知ってたかー。」 げんなりため息で返事をした。 絡まれる俺を横目に桐野江さん笑ってるし…つーか知ってて飲ませたんだろうな。 「チーフ、タチ悪いっすよ。どうすんですか帰り。」 伊月さんがあきれたように言う。 「あー大丈夫大丈夫。俺送っていくし。毎度のことだからな。」 予想していたとうり、あまちゃんは潰れ、俺と伊月さんが居酒屋の前に残された。 「久遠さん、帰りどうします?結構飲まされてましたよね?」 遠くをみたまま、低い声がうるさい居酒屋前でもよく聞こえた。 よく見てる…さずが出来る営業だな…。 「あー、大丈夫です。歩いて帰れる距離なんで。…伊月さんはどうされますか?」 その瞬間、居酒屋から出てきたグループの一人にあたってよろけてしまった。 「……ッ。」 「大丈夫ですか。」 とっさに支えられて、触れられた場所が熱い。 「よかったら送っていきますけど。」 え…? 「いや、いやいや、お、男なんで、だだ、大丈夫です。」 慌てて言うと、 「ハハッ…そんなに必死に言わなくても…。くくっ…ッ。」
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