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その笑顔をみた瞬間、心臓が早鐘を打つ。
…ヤバい、伊月さんて無表情でも格好いいのに笑うとまぶしすぎる。
初恋の、あの頃の気持ちを思い出すようだ。
そのまま別れて、家までの道を歩いた。
若いころは自分の気持ちだけで突っ走ってもいいのかもしれないけれど、自分が異端者であることも、世間の目も、仕事も、相手の人生だって、抱えているものを天秤にかけたとき自分にはハッピーエンドはないんだと答えを出した。
片思いが報われて祝福されるのは男女間の恋愛だけ。
でも中には俺と同じような性癖の人もいるわけで、世間に知られないよう、<普通>のふりをして生活している。
その時、スマホが震えた。
画面には氷室(ひむろ)の表示。
…タイミング、良すぎ。
「もしもし。…いや、まだ帰ってないけど。……え?駅?あーうん。いいよ。」
短い通話を終えて、自宅へ向かっていた足取りを止めた。
氷室という苗字しかしらない男。
彼とは1年前からセフレとして付き合っている。
男同士となると不特定多数の人と寝るより、決まった相手の方が自分の情報も漏れにくいし、病気などのリスクもある。しかもタチ・ネコという役割も相手と合わないといけない。そうなるとなかなか相手はいない。
氷室とはお互いパートナーができるまで、ということで付き合いが続いている。
こんな風に内面に燻る熱を閉じ込めている時なんかは連絡を取って会うことにしている。
迷いなく、駅までの道を歩いた。
「…なんか、あった?」
事を終えて、ピロートークの甘さなどかけらもない部屋で氷室さんが聞いてきた。
シャツを着ながら内心ドキッとする。
「なんで。」
「いや、なんとなく?言いたくなかったらいいよ。」
ベッドに横になって俺の反応を見ている。
「いや、なんて言っていいかわかんない。氷室さんは誰かにドキドキしたりすることあった?」
「どうだろうね。ほら、もう俺30だし?恋してドキドキってよりは、いいなって思う相手がまず男大丈夫そうか反応見ちゃうよね。現実的っていうの?
恋して恋愛、なんてのはなかなか難しいよね。…久遠は誰かにドキドキしてんの?」
興味深々に起き上がって近づく。
「いや、違うから。仕事場にすごいイケメンが居て、同性からみてもかっこいい人ってあんな感じなんだなぁって。で、…ちょっと初恋の相手に似てる。」
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