第一章

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「へぇ、いいじゃん。毎日楽しそう。」 確かに見ているだけなら目の保養になるかも。 「ま、でも気をつけなよ?もてる人種って自分が見られていることも気づいてたりするからね。 変な噂たったらね…。」 氷室さんは俺が前の職場で気づかれたのを知っている。 関係をやめてもいいよ?って言ってくれたこともあったけど、俺の問題だったから。 「うん。分かってる。…じゃ、先俺帰るから。」 そういってホテルを出た。 気づかれてしまったのは、勤めていた眼科のDrだった。 勤務医で週に2-3度来る人。 仕事が終わって氷室に会い、ホテルから一緒に出てきて氷室さんと別れたところで声をかけられた。偶然見られたのか、つけられたのかはわからないけれど。 それから仕事終わりに声をかけられ、食事に誘われたり、自分と付き合わないかと言って来た。勿論きっぱりと断ったけれど、最後には脅しのようになってきて精神的に参ってしまっていたから。 すごく紳士的でいいDrだと思っていただけにショックだった。 だから氷室さんとは恋人同士ではなくても、同じ傷を隠して生きている同志みたいなもんだから、会って話すだけでも孤独じゃないって安心できた。 「あー…真っ暗。」 人通りが少なくって来ている駅から自宅へ足を向ける。 ネガティブな思考を振り払うように。 大丈夫、もうあんなこと繰り返さない
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