華知らぬ暁、子犬と檸檬

13/35

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「ちょっと! 触んないでよっ!!」  思わず口元がへにょっとよれた瞬間、その不穏な声は僕の耳を叩いた。 「気安く近寄らないでって言ってんじゃないっ!!」 「へへ、イイじゃねぇのよオネェサン」 「少ぉし仲良くしようぜぇ~? なぁ~?」  ハッと顔をあげて周囲を見回す。  同じフロアからの聞こえ方じゃない。  もっと上、少なくとも2階以上で…… 「野暮ったいカッコしてんじゃん?  俺らがもっとイイ服買ってあげるからサァ……」 「ソーソー、もっとオネェサンに似合いそうな、ブランド物のエッロイやつ!」  焦る心をなだめて、中庭に臨む空中回廊へ視線を走らせる。  目的の集団はすぐに見つかった。  回廊の手すりに背中を預けるようにして立った夏子さんは、いかにもガラが悪そうな男達に周囲を囲まれている。  男達と夏子さんの間合いは約2歩。  距離を取っているつもりで追い詰められてしまったのだろう。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加