華知らぬ暁、子犬と檸檬

21/35

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「あ……えっと……あれ、レモンソルベだったんだけど……  ……夏子さん、好きなんじゃないかなって、思って……」 「私のために、買ってくれたの?」  結局、渡せなかったんだけど。  夏子さんの問いに頷きながらも、そのことにも心が沈む。  結局、僕は夏子さんからの課題をクリアできず、差し入れ1つも渡せていない。  僕は一体、何をしたかったのか…… 「ふーん」  俯く僕の視界に、不意に夏子さんの顔が入った。  えっ、と思った瞬間、頬にペロリと何かが触れる。 「…? ……!?」 「うん、きっと気に入る味だと思う」  思わず舐められた頬を押さえて顔を跳ねあげたら、夏子さんはイタズラが成功した子供のように笑っていた。 「瀬戸のほっぺにしぶきが飛んでたから、味見させてもらったわ。  それを私に投資として持ってこようとしていたなら、今日の講義は意味があったということね」 「えっ……!?」  僕は訳が分からないまま目を白黒させることしかできない。  カァッと一気に顔が熱くなってろくに物を考えることができない僕に、夏子さんはクスリと笑みをこぼした。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加