華知らぬ暁、子犬と檸檬

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「華」  その瞬間、フワリと夏子さんが動いた。  華さんの目の前に回り込んで、首を引き寄せるように両腕を回す。  そして顔が近付いて…… 「ん!? んん……っ!?」  キス、していた、華さんと。  突然のことに反射的に抵抗しようとする華さんを夏子さんが無理矢理押さえ込んでいる構図だ。  思わずポカーンと見物していたら、夏子さんが視線で何かを示していた。  視線の先にはバス停があって、今まさしくバスが止まろうとしている。  夏子さんの方へ視線を戻すと、華さんの首に回ったままの腕の先で手がヒラリと踊った。  今の内に、お行きなさいな  そんな言葉が聞こえたような気がした。  僕は紙袋を握り締めたまま後ずさり、脱兎の勢いで走りだした。  エントランスを回り込み、僕が滑り込んだ瞬間にバスは扉を閉めて発車する。  『駆け込み乗車は~』とお決まりのアナウンスが流れる中、窓から外を見るとクッタリした華さんにもたれかかって夏子さんが上機嫌で笑っているのが目に入った。
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