華知らぬ暁、子犬と檸檬

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 その言葉にハッと僕は目を見張った。 『これが投資よ』  そう得意げに言い放った夏子さんの勝ち誇ったような笑みが脳内によみがえる。 「伸び盛りって……」  だけど、口から出たのは別の言葉だった。 「お前、気付いてなかったのか?  最近、寝るごとに背ぇ伸びてんだろ。  声も低くなってきたし」  じゃあ、毎朝僕の意識を叩き起こすあの痛みも、かすれ気味な喉も、風邪の初期症状なんかじゃなくて。  縮んでしまったのは、服の方じゃなくて。  記憶の中にある夏子さんと今現実の夏子さんとの身長の誤差は、決して記憶が生みだした幻なんかじゃなくて。  信じられない思いで神永さんを見上げると、神永さんは僕の頭に手を乗せたまま、嬉しそうに……本当に心の底から嬉しそうに笑った。 「7年間時を止めてたお前が、この女性(ヒト)のためなら大人になってもいいって思えるような相手に、やっと巡り逢えたんだな。  良かったよなぁ、本当に良かった。  その相手がお前のことをこんなにもしっかり見てくれるセンスのいい人で、俺は安心したよ。  この投資主のためなら『マスターをほっぽってでも守りに行けっ!!』て、心底本音でお前の背中を叩けるな」
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