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「やっぱ暁さんって目が肥えてるよなぁ。
お前に似合う色を分かってる」
箱に納まっていたのはネクタイだった。
渋いワインレッドの色は艶やかで、派手さを抑えた分深みのある色彩をしている。
神永さんがネクタイに感心している間に、僕は紙の方へ視線を向けた。
裏返っていた紙を表に返すと、そこには『予約伝票』という文字が躍っている。
「……っ」
僕は思わず息を呑んだ。
夏子さんが『一人で行きたいお店があるから』と言い置いて向かった先がこの店だったとすぐに分かった。
だって、いくらボーっとしていたって、この店に入ればさすがに僕だって覚えているはずなんだ。
マスターも贔屓にしている、歴史あるオーダーメイドのスーツ店。
確かあのモールには、近隣で唯一のテナントショップとしてこの店が入っていたはずだ。
だからマスターも、ここのスーツをオーダーする時にはあそこの店を使っていたと記憶している。
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