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「き、今日はありがとうございました。
あのっ、お礼を……」
『レモンソルベ』
「え?」
『今日食べそびれたレモンソルベ。
あれが食べたいわ。
近いうちにおごって頂戴』
僕が言葉を言い切るよりも早く要望を口にした夏子さんは、嬉しそうにクスッと笑った。
たったそれだけの吐息で、僕の心拍数がジワリと上がっていく。
『その時は、今日投資した物をちゃんと着てくるのよ?
私ももっとお洒落していくから、ダサい服なんて許さないわ。
きちんとコーディネートしてきなさいね』
今日受け取った服は、全部私服だった。
仕事服はあのネクタイと、未来の約束を示す伝票だけ。
「っ…、はいっ!!」
へにょんと口元がよれたのが分かった。
足元がフワフワしているような心地がする。
僕の返事を聞いた時点で通話は切れていた。
きっと華さんからの追及をかわしきれなくなったのだろう。
そんな場面を想像して、クスリと笑ってしまう。
そっとスマホと予約伝票を包み込むようにして持ち、僕はそのまま、穏やかな笑みを浮かべていた。
《 END 》
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