6/9
前へ
/20ページ
次へ
「あの量、一人でやらせるなんて、それこそ虐めだろ」 北島さんが、山崎に向かって言ったから、慌てて訂正する。 「あの時は、山崎さんの指示じゃなくて、たまたま総務から電話とったの私で、他のみんなが解剖室に出払ってしまっていたので、急遽私が受け取りに行きました」 発注したエタノールの入った一斗缶が、月一ペースで40缶届くのだ。他にも色んな試薬が届くけれど、普段は、みんなで手分けしてトラックで届けられたものを下ろして、倉庫に運ぶのだ。 そのタイミングでたまたま、山崎を含めて、みんな病理棟にはいなくて、手が離せるのが私だけだった。 運転手のおじさんが、トラックから下ろすのは手伝ってくれたのだが、それを倉庫にしまっているところに、 「大丈夫?」って、声かけて手伝ってくれた人が、北島さんだったなんて… 1本18リットルのエタノールを数本運んでくれた後、「やべー戻らなきゃ」って走って行ってしまい、お礼も言えていなかった。 少しだけ長めの短髪にパーマを緩やかにかけている特徴的な髪型だったから、そのあと、入って行った研究棟に行った時には、同じ髪型を探してはいたけれど、見つからなかった。 「あの後、髪型すぐ変えられたんですか?」 「うん…失恋してね」 「え?失恋ですか!?」 「嘘だよ(笑)あの時、機械動かしてたから、すぐ戻らないと行けなかったんだよね~待ち時間に一服しに外でてたら、姿見えたから」 「それで、慌てて!忙しいところ、すみません。お礼が言えて、良かったです」 「お礼言わせる為に名乗ったんじゃないんだけどね(笑)初めての出会いじゃなくて、その前に運命の出会いしてるって話だよ」 そう言って、トイレに向かって席を立った。 2人残され、横を見ると、頬杖ついてる山崎と目があった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加