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伝えたくなる言葉がある。
言葉にしてみれば簡単。声に出せば言葉の尊さが失われる。書けば想いは乗る。聴けば愛しさで埋まる。甘く、重く、美しく、貴い。そんな言葉は1つしかないも同義。
ただ伝えたくてたまらないのに躊躇うのは、その言葉の甘美な響きが失われることを恐れているからだろう。
どうしても、何らかの形で伝えたい。英語で言うのは簡単だ。“I love you”で終わりなのだから。けれど、日本語にすればまるで違う。
「あなたを愛しています」――なんて、たおやかで控えめでしなやかなのだろう。
この言葉の美しさに気が付かない人は損をしていると思う。
とにもかくにも、如何にこの言葉の美しさを損なわずに相手に伝えるか、頭が痛くなるほどに考えていた。熟考なんてものではない。それこそ四六時中、食事をしようと用を足そうと自転車や電車に乗ろうと授業中だろうと入浴しようと歩いていようと教室移動をしていようと走ろうと、ありとあらゆる場面でそのことばかりを考えていた。
言葉に取り憑かれたと言ってもいいだろう。
おかげで授業態度はあまりよくなく、教科のノートの代わりにアイデアブックを開き、シャーペン片手に声を出すことなく唸っている。教科書はもちろん見ない。そんなことをしている生徒を見て放っておく教師はそうそういないだろう。事実、7限あるうちの5限では注意を受けていた。それでも懲りないのは、この問いに答えが出てこないからである。
逆に言えば、この問いさえ答えが出ればきちんと真面目に教科書を開いてノートに板書きを写すという日本ではごく一般的な授業を受けるスタイルになるのだ。
そのことを心得ている教師はわざわざ思考の邪魔をするようなことはない。いつかはきちんと授業を受けるということがわかっているからだ。
それがわかっていない教師は、1限の間に5回は注意をする。よく飽きないものだ、と内心で感心している。
そんな心情がバレたら即職員室行きなので声に出すことはしない。保身は大事なのである。
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