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「じゃあ、ここで。……おやすみ、香月」
くるっと背を向けて歩く俺に、追いかけてくる声。
「…先生っ、空いてる日教えて下さいね!抹茶専門店、忘れないで下さいよ!」
振り返ると、にこやかに微笑む香月の姿。
手を振りながら、アパートの入口へと消えていった。
はぁぁぁ、と長い溜息が洩れる。
どうしてくれよう、俺の、この行き場のない気持ち。
「………ヤバい。本気になりそう……」
呟いた言葉は、一瞬にして暗い夜空へと吸い込まれていく。
相手のいる女を好きになるなんて、不毛すぎるだろう。
「……あー、まいったな……」
ギリギリのところで踏みとどまっているつもりが、この時にはすでに、手遅れだったのかもしれない。
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