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パパに会いたい?パパに会いたい?パパに会いたい?舞ちゃんはタコ足を持ったまま、呆然とここにはいないはずのママを視ていた、と、突然、バケツをひっくり返したような雨が降りだした。舞ちゃんは大慌てでタコ足を家の中に放り投げて、残っていた布団を取り込もうとした。洗濯ばさみを物干しざおからひったくって自分の親指や手首にはさむ。濡れた布団はとてつもなく重く、舞ちゃんの体にずしりとのしかかかった。舞ちゃんは布団もろとも突風で吹っ飛ばされた。物干しざおは雨に打たれ、暴風に弄ばれ、大きな音をたてて生垣にぶつかった。庭で伸び放題の雑草は折れて下を向き、気が狂ったみたいに頭を振っている。舞ちゃんは背負ったままのランドセルのおかげで花壇に頭をぶつけずにすんだが、身動きが取れずに泥まみれでチューリップの隣で横たわったまま、ただ呆然と、速すぎる雨雲を見上げていた。渦を巻いている真っ黒な雲の中が、ピカッ、ピカッと妖しく光った。「怖くないっ!」舞ちゃんは叫んだ。「怖くないもんっ!」暴れまわる空を舞ちゃんは睨み続けた。もう一度、真っ暗な空に光が走った。すると空からではなく、舞ちゃんのすぐ頭の下、草っぱらから、岩が崖から転がり落ちるようなすさまじい音がして地面が揺れた。「……ッ!」舞ちゃんは声にならない悲鳴を上げシーツを引き上げ顔を空から隠し、ぎゅっと庭の草を握った。真っ暗な雨の中、舞ちゃんを包む布団からは昼間の太陽のにおいがまだした。
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