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偽りの再会
「よーし!完・壁!」
ドレスに着替えた俺に澪さんがメイクを施す。
ヘアスタイルはハニーブロンド色のロングのウィッグを被り、ロングの毛先は綺麗にカールされていた。
「ユウナちゃん!今日も綺麗に出来たよー!」
ユウナ・・・この店での俺の源氏名だ。
「いつもすみません。」
澪さんに頭を下げた。
店でも人気ホステスの澪さんは、女装して働く俺の世話係も任されていた。
こうやって身形も整えてくれる。
年齢は24歳で、くっきり二重の大きい瞳が可愛らしい子だ。
「ユウナちゃんってホント罪よね~!男のくせに、そこら辺の女の子より綺麗だもーん。」
それは褒め言葉なのか?微妙なところだ。
「綺麗って言われても・・・正直どう反応すればいいのか・・・」
「堂々としてればいいよ~!最初はさ、どうなる事かと思ったけど・・・最近はホステス業も板についてきてるみたいだし~・・・一層の事、こっちを本業にしちゃう!?」
ケタケタ笑う澪さんは愛くるしいが、冗談でもやめて欲しい。
しかし悪気が無い事はわかっている。
「言っておくけど、俺・・・本当にオカマでもなければ、女装家でもないから!」
ここで働き始めた時、蝶子ママが予め俺が男である事は説明してくれていたらしい。
しかしそれだけで、他のホステスは当初俺を、女装好きの男と思っていたそうだ。
再度説明する事で皆、理解してくれたが・・・。
「わかってるって!さて!ユウナさん!出番ですよ!」
気がつけば開店の時間が迫っていた。
慌ててフロアに移動する。
最初は痛くて仕方が無かったヒールも慣れてきた。
開店時間は20時、オープンと同時に常連客が来店した。
今夜は金曜日の夜なので、お客も多そうだ。
『クラブ・蝶』はオープン当初からなかなかの繁盛振りを見せていた。
客も会社経営者や役員、医者、教授など、それなりの職業や地位を持った人間が常連だった。
もちろん一般客も多い。
蝶子は、元々ナンバーワンホステスだった経歴の持ち主だそうで、かつてのお客さんも来る事が多い。
そこで広がった人脈はなかなかな物なのだろうと、客層を見る度に思った。
働き出して3ヶ月経ち俺にも指名がよく入る様になった。
最初はガチガチに緊張していたが、あの発展場のバーでの経験からか、男性相手に密着し話をするのは、さほど抵抗が無かった。
ただ、女性として扱われる事には違和感を感じた。
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