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「………っ!!」
息が止まりそうだった。
あれだけ会いたかった彼、思い焦がれた彼だ―。
「おぉ、君もなかなか美人だね。さっ、座って。」
大槻と共に来店した、一番役職の高そうな男が満足そうに言った。
俺は席に促され、恐る恐る大槻の隣に腰かけた。
―やばい。
気がどうかなりそうだ。
今、近くに
本物の大槻がいる―。
「こんばんは。」
大槻が俺に声を掛けてきた。
あぁ・・・この声だと思った。
低くて心に沁みるような声―。
大好きだったあの笑みを浮かべた、目の前の人物は
間違いなく幻でもなんでもない。
「こ、こんばんは。」
きっと、ぎこちない笑顔になっている。
―駄目だ。
平然を装わなければ、あやしく思われてしまう。
俺だとバレるわけにはいかない。
「ウイスキー、ロックで貰える?」
「は、はい。」
俺は震える手を叱咤しながらボトルを空ける。
そんな俺の動きに合わせて、大槻の視線が痛いほど感じた。
メイクを濃い目にしているので、俺だとバレるとは思わないが、
その鋭い視線に、背中から冷や汗が流れる。
落ち着け―。大体女装しているホステスが俺だなんて
常識外れた事に気付くはずがない。
そう言い聞かせながら、グラスにウイスキー注ぎ、マドラーで軽くかき混ぜた。
「どうした大槻。マジマジとその子ばかり見て。」
「え?あぁ、いえ。特に理由はありません。」
そう言うと大槻は俺からグラスを受け取り、視線を外した。
「いやーここは美人揃いの子ばかりですね!立川本部長!」
もう一人連れ合いの男性が店内を見渡した。
どうやら一番年配の男性が本部長職で、思った通り立場が一番上だった。
部下にもう一人の男性と大槻といったところだろうか。
「私もビックリしているよ。最近こっちの知り合いに、いい所がオープンしたって聞いてね。
この際だから来てみたかったのだよー!折角の出張だからね~妻にはバレないし!ワハハ!」
どうやら三人は出張でこの地へ来たようだ。
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