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店の前で蝶子ママ含め、接客したメンバーで大槻達を見送る中、俺は心底安堵していた。
正直どうなる事かと思ったが、ホステス「ユウナ」を演じ切ったと思う。
今日ほど、精神力を使った日はなかったが―。
「ほんまに今日はありがとうございました。また出張中に機会がありましたら是非御贔屓にして下さいねぇ。」
蝶子ママが優雅に深々と一礼すると共に見送りメンバー全員で頭を下げた。
「いや~!ママ!いい夜を過ごせたよ。ありがとう!」
立川本部長と谷尾さんが一足先にタクシーに乗り込んだ。
大槻もそのまま乗り込むのだろうと思ったが、パッと俺達の方を振り返った。
そして大槻は徐(おもむろ)に、名刺入れから名刺を出し、裏面に素早くペンで何かを書き込むと、俺に名刺を差し出してきたのだ。
「・・・・え?」
突然の事で戸惑い、恐る恐る名刺を受取る。
裏面を確認すると電話番号が書かれていた。
「表面は仕事の携帯だから、裏面がプライベートだ。」
「・・・え!?あの・・・?」
意味を探っていると、大槻は微笑んだ。
「じゃあ、また来る。」
そう言うと大槻はタクシーに乗り込み、そのまま街の灯りの中へと消えていった。
俺は大槻に渡された名刺を手にしながら、タクシーが走り去った方を茫然と見つめていた――。
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