終わらせた初恋

2/5
前へ
/28ページ
次へ
橘 結人side 昔、大好きだった人がいた。 名前は大槻一哉(おおつきかずや)同じ大学で同じ学部に通っていた男だ。 切れ長の涼しい目に高い鼻。 整った顔立ちの大槻はクールな雰囲気を醸し出しているが、笑うと雰囲気が柔らかくなり優しさを感じた。 初めて出会ったのは大学二回生の時、同じ講義でたまたま隣の席に座ったのがきっかけで仲良くなった。 俺が教材を忘れたのに気が付いたのか、声を掛けてきてくれたのだ。 「忘れた?一緒に見ようか。」 優しい笑顔と声に胸が鳴ったのを覚えている。 それから徐々に友人としての距離が縮まった。 元々引っ込み思案な性格の俺は、大学でなかなか気の合う友人が見つけられなかったが、大槻と親しくなると共に彼の友人を含め、少しだか交流の輪が広がった。 お互い文学が好きで内容を語り合ったり、音楽の趣味も合うのかCDもよく貸し借りしていた。 構内では常に一緒にいたし、周りからお前らいつも一緒だな妖しいぞと、よく茶化された。 大槻はとにかく頭が良くて試験前はいつも勉強を教えてくれた。 教えてくれている時の、静かで男性的な声が心地よかったのを覚えている。 あの声で名を呼ばれると、胸が鳴った。 俺は自然と大槻に惹かれていった。 同時に自分が男性を恋愛対象にする性癖の持ち主だと分かった。 道理で年頃になっても女の子に何も感じないはずだった。 思い返せば、思春期の頃から男の裸に魅力を感じていた。 ただそれは自分の貧弱な体に対する、コンプレックスからの憧れかと思っていた。 正直、受け入れがたい事実で、恋心を自覚した時には愕然とした。 これまでの人生観が覆されたような、そんな感覚だった。 当時、大槻には付き会っている彼女がいた。 かなりの美人だったのを覚えている。 同じ大学の子にも、よく告白されていた。 コンパにもよく顔を出していたし、言い寄る女は多かった。 勉強が出来、格好良いとなれば女が放っておくはずがない。 けれど、大槻は長続きするタイプではないらしく、在学中よく彼女が変わっていた。 歴代の彼女が大槻の隣で笑うのを見かける度、俺は激しく嫉妬した。 あの隣にいるのが俺だったらいいのに。 俺にも彼女と同じように笑いかけて欲しい。 どんな抱き方をするのだろう? 全部、全部… 俺に向けてくれたらいいのに――と。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8012人が本棚に入れています
本棚に追加