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―今、俺は…大槻と二人で席に着いている。
昨日は他の女の子もいたし、大槻の会社の人間もいた。
思いがけない再会に緊張したが、何とか乗り切れた。
しかし、今は乗り切れる自信がない―。
「・・・ユウナさん?」
ずっと黙り込んだ俺を不思議がったように大槻は訊ねてきた。
「え!?あ・・・すみません!さっきの事がちょっとビックリしてて・・・」
しっかりしろ。大槻は客だ・・・
昨日の様にユウナを演じ切るんだ。
「とにかく怪我がなくて良かった。君の綺麗な顔に傷が付いたら大変な事だった。」
なんて気障ったいセリフなんだと思うが、それも似合うのがこの大槻一哉という男だ。
今日の大槻は落ち着いた紺色のスーツを着ていた。
これ程スーツを格好良く着こなせる日本人はそうそういないだろう。
「ご迷惑をおかけしてすみません。本当に助かりました。」
「いや。迷惑ではない・・・逆に良かった。」
「え・・・?」
「こうして君を一人占め出来る理由が出来た。」
不敵そうに微笑みながら、大槻はまたしても女が落ちそうなセリフを吐いた。
もちろん当の昔に俺は落ちているが、この男…28歳にしては熟し過ぎている―。
「…私も大槻さんとこうやって過ごせて嬉しいです。」
サービストークを心掛けながら、水割りを作る俺を大槻はジッ見ていた。
「・・・・・あれから」
「あれから・・・?」
「電話を待っていたのだが…」
それを聞いて俺は名刺の事だとわかった。
「お客様のプライベートまでお時間を取らせるわけにはいかないので…」
「ははっ。そうか。」
大槻は水割りを一口飲むと、ふっと息を吐いた。
「実は昨日、初めて君に会ってから……。」
そこまで言って言い淀んだ様子だ。
「・・・・・・?」
大槻の言葉を俺は待った。
「昔から知っている人に何となく似ているなと思ってね……。」
「!?」
それは思いがけない言葉だった。
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