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邪な考えが日に日に増殖し、俺を支配していった。
大槻の事を思い自慰する事もあった。
今日は肩が触れた。
今日はじゃれ合うように後ろから腕が回された。
今日は耳元で呼び掛けられた。
その度に俺は興奮した。
大槻に抱かれる事を想像しながら、熱を吐き出す行為。
そんな自分が気持ち悪かった。
大槻への罪悪感でいっぱいになった。
こんな醜い姿を知らず友人として優しく接してくれる大槻に、ただただ申し訳なかった。
親しい友人としていれるだけで充分なのだ。
元々人種が違う。
誰からも注目される男だ。暗くて要領の悪い俺とは全然違う。
この恋心は一生隠していこう―。
そう思っていた。
お互い四回生になり、就職活動が忙しいので、プライベートでは自然と会う機会が減った。
そんな中、家庭では両親の離婚が決まった。
元々両親の仲は冷え切っていた。
仕事一本で亭主関白の父は、あまり家庭を省みる人でなく
そんな父に母も長年我慢していたそうだ。
一番上の兄は関東の一流企業に勤めていたし、二番目の兄も専門学校を出てから専門職に就いて、地方へ出向いていた。
実家には父と母、俺の三人で暮らしていた。
母は慰謝料も何もいらない、子供も手が離れましたので、出て行きますと告げ、自分の名前が書かれた離婚届を机上に置いた。
父も何の迷いの素振りも見せず名前を記入すると
翌日、母は荷物をまとめて出て行った。
離婚の顛末を、俺はリビングのソファーで寛いでいる時に見届けた訳だが、それはそれは呆気ないものだった。
あまりに呆気なくて、何も言うことが出来なかった。
正直、家族がバラバラになったのは辛かった。
母は離婚後、兼ねてから交際していた男性と一緒になったと聞いた。
父も同級生と同窓会で再会したのを折りに交際を始め、その女性をよく家に連れてきた。
いい歳した父が恋人を連れ込むのに嫌悪した。
父の事は昔からどこか苦手だった。
ここまで育ててくれた事には勿論感謝はしている。
大学と卒業同時に出て行こう―…。
それだったら、苦しい恋にもさよならが出来るじゃないかと。
そう、決めた。
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