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――季節も秋に差し掛かった頃、大槻から「会おう」との連絡がよく入ってくるようになった。
どうやら第一志望の一流企業に就職が内定したらしい。
就職氷河期と言われるご時世で、流石というべきか…。
選ばれた人っているんだなと、羨ましさを通り越して尊敬していた。
そんな男を好きになる資格なんて俺にはないのだ。
家を出るのと同時に、この恋心にも終わりを告げる決心をした。
会おうと言う大槻を、まだ内定を貰っていないから暫く就職活動に集中したいと告げた。
近くにいたら、きっと決心が鈍ってしまうと――。
就職先を地方の中小企業に絞り、ようやく内定をもらったのは大学卒業間近だった。
大槻にはギリギリまで告げず、卒業式のに「実は・・・」と切り出した。
大槻は何で今まで黙ってたんだと言う様子だったが、こっちに帰ってきた時は会おうと、休みの日には会いに行くからまた住所を教えてくれと言ってくれた。
教える気は無かった。
ここで教えてしまうと…また報われない恋に苦しまないといけないと―。
ただ、心が痛かった。
純粋に友を想う彼の気持ちを裏切っているようで――。
曖昧な返事をする俺に、大槻は訝しげな顔をしていてたが他の友人に呼ばれ「この後の謝恩会で」と告げ友人の元へ駆け寄って行った。
そんな大槻の背中をずっと眺めていた。
ピンと背筋が伸びた、逞しい背中を瞳の奥に焼きつけるように―。
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