もうひとつの顔

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「そう言われたらなぁ~」 バツが悪そうな三枝だが、気分を害した様子はない。 逆にもうすぐ父親になる事を再確認したような笑みを見せた。 「また次の機会に誘ってよ。俺、最近ちょっと忙しくて…また落ち着いたら飲みに行こう。」 俺は三枝の肩をポンと叩いた。 「忙しいって、何だよ~?あ!彼女でも出来た!?」 「ははっ、まさか。」 「なんだ。面白くねぇなぁ!お前も早く彼女作れよ、それで結婚しちまえ。」 「結婚って、簡単に言うんだから…じゃあ俺、帰るから。」 この手の話題は苦手だ。 三枝に片手を上げ、早々に話を切り上げる。 「おう!また明日な!」 三枝の声を背に、俺は早足で会社を出た。 最近プライベートな付き合いを自粛している。 というか、せざるを得ない。 元々プライベートを共にする相手など、ほとんどいないけれど…。 (ギリギリだな…) スマホの時間を確認すると19時30分と表示されていた。 俺は小走りで目的の場所へと向かった。 目的地は繁華街のど真ん中にある。 そこはバーやスナック、クラブ等が軒を連なっていて、既に夜の顔をしていた。 各店舗、キラキラ輝く看板が眩しい。 俺はある一つの店の裏口の戸を開けた。 「あ!来た来た!おそ~い!早く準備して!」 扉を開けると同時に、青い華やかなロングドレスを着たグラマラスな女性が待ちわびていたかのように出迎えた。 「すみません、澪さん、最近仕事が忙しくて…」 「あ~もう!いいからいいから!準備準備!先に着替えて!その後メイクね!はい!急ぐっ!!」 頭を下げ謝ったが、遅れた理由など彼女からしたらどうでも良いのだろう 「あ、はいっ!」 急かす澪さんに背を押され、部屋に入る。 その部屋はロッカーがいくつかあり、俺の名前が書かれたロッカーを開けると そこには今日の衣装があった。 「今日は…シンプルだな。良かった」 衣装を見て俺は安堵する。 胸元にはビジューとパールが装飾されただけの、控え目なデザインのものだった。 時計を見ると19時50分を示しており 「…やばっ!急がないと!」 俺はネクタイを素早く解き、スーツも捨てる様に脱いだ。
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