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プロの戸田さんからのお墨付きに悪い気がするはずが無い。カットが始まる前と最後のシャンプー、サービスのヘッドスパ、嗅ぎ馴れないどこか高級感のある香りとさっきのお墨付きを受けていると髪を切るのを躊躇っていた自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。
(前より可愛くなるんだもん。何も悪くないよね?)
店を出る頃にはさっきまでの躊躇は嘘の様に小さくなり、むしろ帰りのこの上り坂の方が憂鬱な程だった。
「はぁ……はぁ……夏休みで……少し……だらだらしすぎちゃったかな」
せっかく整えてもらった髪が汗で幾分崩れてしまっているのも疲れを感じている原因なのだが、坂の半ばにしてすでに、私の息は上がり切っていた。そんな時だった。
『チリン……リリン』
「え?」
涼し気な風と共に鈴の様な音色が聞こえた。導かれるというのは大げさかもしれないけれど、何か引っかかる様な、後ろ髪を引かれる様な感覚で私は鈴の音の方を覗き込んだ。
「あ……」
こ綺麗な、でも何処か時代を感じさせる落ち着いた赤の社、小ぶりな賽銭箱とそれを見つめる2匹の狐の像。社の看板には『万華神社』と書かれていた。
(あれ?この近くの神社って満願神社じゃ……まぁ、いっか……」
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