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思い返せば、彼のそういう姿には見覚えがある。ついさっきだって私の髪型を褒めてくれたというのに、私は気づかなかった……気付けなかった。長く一緒にいた幼馴染という関係が、彼の勇気も変化も、馴れの中で鈍化させてしまっていた。
「あなた達は……相思相愛だったのにね……」
「……」
メガ姉との話は、そのまま終わってしまった。打ち切ったのは私だった。これ以上、聞く気力が湧かなかった。そんな私にメガ姉は一言
「彼に、電話しなさい。そこで、あなたが本当に彼を諦めるかどうか……決めるといいわ」
と言った。
授業に体育があったわけじゃない。夜更かしもしていない。心が疲れるとこんなにも疲れを感じるんだという事を私は始めて体験した気がした。
「ただいま」
自分の部屋に向かう私に母さんが不思議そうな顔を向ける。そんなに分かり易い声を出した覚えはなかったけれど、毎日会っている母さんには隠しきれなかったみたいだ。
(鋭いなぁ……でも今は構わないでほしいな……)
「美帆?あんた、なんかあったの?」
「うっ……な、なんでもない!!」
何か言いたそうな母さんから逃げるように部屋に入る。
「まったく、勘は鋭いのに鈍いんだから……」
ぶつぶつと文句を言いながらも私服に着替える。携帯だけを握りしめて家を出る。家の近くの寂れた公園、小さい頃は透とよく遊んだそれはこの公園の唯一の遊具でもある。砂場を眺めながらベンチに座る。
「……よし」
本当は湧かない勇気と整理しきれない自分に嘘をついて履歴から透の番号を呼び出す。
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