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0.湿った導火線
それはまだ幼馴染という言葉も知らない年少の頃の記憶。
「あんたまた透君と喧嘩したの?」
呆れる母さんの前に半べその私が言う。
「うん!でも明日仲直りするからいいの。みほととおるの小指は赤い糸でつながってるから大丈夫なの」
それは凄く懐かしい、そしてちょっと恥ずかしい記憶。あの頃はなぜだろう。凄く素直に人に好きだと言えたのに、今の私は大きくなったのに、心はどんどん小さくなっているみたいだ。
君の導火線
《キーンコーンカーンコーン》
授業の終わりを告げる古臭い音がした。途端に騒がしくなる校舎はそれぞれの仲良しグループが集まり始める。
「今日カラオケ行かない?」
「悪い!俺バイト」
「あー、俺もパス。今日予約してるゲーム取りに隣町行くんだわ」
「マジかよ……じゃあしゃーないなぁ」
軽いため息混じりに斎藤透が私を見て不機嫌そうに言う。
「美帆は今日暇?」
「えっ……ゴメン!今日は予定あるから!!」
赤くなる顔を隠す様に慌てて席を立った私、春野美帆は急いで教室を出ようとするが、その後ろから透の少し低い声が届いた。
「マジかよー、あっ、そうだ!……美帆!だいぶ髪伸びたな!やっぱお前は髪、長い方が似合ってるぜ」
幼馴染の透は昔からそう言うことを言うのに躊躇がない。よりにもよって少し離れたこんな距離で持ち前の大きな声でそんな事を話すものだから私たちはいい具合に注目を集めている。クラスの視線のせいか私は頬が熱いのを堪えていつもの様に憎まれ口をたたく。
「た……ただ夏休みに切りそびれただけよ!!」
「……そっか、似合ってると思ったんだけどなぁ」
「わ、私が気に入ってないの!」
「……そっか」
私はそれ以上に言葉を交わす事なく走って学校を出た。
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