湿った導火線

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「ううう……メガ姉ぇー!!」 そして、いつもの様に彼女の胸に飛び込む。クラスメイト、140センチの身長からは想像の出来ないデータバンクを持ち定期テスト学年1独占少女、通称メガ姉こと佐藤恵美(サトウメグミ)は私の恋愛アドバイザーでもある。と、言ってもなかなか一歩を踏み出せない私にとって彼女の出来ることは概ねお説教でしかないのだが、それでも私にとって唯一の癒しだった。 「だいたいの事は分かってるわ……どうせ下校前のアレでしょう?」 「うん……」 私がうつむくのを見て彼女が小さくため息を漏らす。 「はぁ……せっかくチャンスだったのに、どうせ今日の予定ってのも本当は?」 「美容院……」 「……どんな髪型にするの?」 「ショートのボブカット……」 「……キャンセルなさい!」 「それも考えたんだけど……」 「考えたんだけど?」 「あんなクラスのど真ん中で似合うって言われたら同じ髪型で登校とか……無理」 「……」 顔を覆う私と私を死んだ魚の様な目で見るメガ姉。私だって自分がどんだけ残念な事をしているかなんて分かっている。分かっていても踏み出せないことはあるのだから仕方ない。さっきより明け透けに大きなため息の後、メガ姉が言う。 「とにかく……まずは貴女が頑張らないとね。彼だっていつまでも好きな人がいないとは限らないんだから、幼馴染だからって安心しててはダメよ?」 「ぅん……」 正論すぎて返す言葉もない。その時だった。携帯を見たメガ姉が突然表情を緩める。 「ゴメン!美帆。今日私寄り道するね!次は絶対に!!頑張るのよ!?」 「え!?う……うん」 各駅停車しか止まらない寂れた駅の道中、この周辺には学校以外には見渡す限り田園が広がるだけだというのに、彼女は突然にそう言って、呆気にとられる私を置き去りにする。残り数分の駅の道、私は改めて今日の出来事やメガ姉の言葉を思い返して気合いを入れ直す。 「そうだよね……変わらなきゃいけないのは私だもん。『次』は絶対に!!」 そう意気込んで駅の改札に定期券を通した私はようやくメガ姉の意図に気づいた。
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