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また、沈黙が続いた。私は隣に座った、隣を選んでくれた彼の意図を探るように顔を覗くけど、彼は景色に目を落としていて表情さえ読み取れなかった。いつからか、私と透は二人で話すことが極端に減った。電話は今もよくする。ただ、昔の様に二人で友達としては遊ばない。なぜなのか。答えは簡単だった。私がこの斎藤透に恋をし、幼なじみという関係に片思いを重ねてしまったからだ。透は昔から何も変わらない。昔からの能天気な性格、体育が好きで座学で居眠りするいつもの透だ。
(いっそ、言い出す勇気がないなら……恋なんかしなければもっと楽しく話せたのに……)
私の彼への想いは臆病に負けて、一歩も進み出さない。まるで湿った導火線の様に初めの火さえ灯せずにぐずぐずしている。
「……」
「……」
結局何を話すことも出来ずに目的の駅が近づいて行く。ささやかな幸福と、貴重な機会を無駄にしている焦りが入り交じるそんな中、また、彼が口を開いた。
「今日、髪切りに行くの?」
「……うん」
「そう……」
それが、その日彼と交わす最後の会話になった。そして、それは私の大きな後悔になるのだけど、この時の私はそれを知らない。
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