不思議な導火線

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こんな風に言い訳ばかりしている毎日には自分でも嫌気が差す。変わりたくないわけでは無い。変わりたい。でも、変われない。そんな日常に私はすっかり馴れてしまった。 (そう言えば美容院までの道に神社があったな……お祈りでもしてみようかな) 他力本願、私が変わろうとする力なんてせいぜいそんなものだった。 行きつけの美容院は家から自転車で15分、二駅分の距離があるけれど、そこはお小遣いの少ない学生だ。自転車は嫌いじゃ無い。自分では辿り着けないところへ私を連れて行ってくれる。容赦の無い田舎の下り坂を下る。吹き抜けて行く風は夏の終わりを感じさせる温度が切なく、でも、汗を散らすその風はそれ以上の爽快感で私の後悔を散らし、忘れさせていく。坂を下り切れば目的の美容院は目と鼻の先だ。ドアを開く。 「あっ、いつもご利用ありがとうございます。戸田さん!美帆ちゃん来たよ!!」 受付の美容師さんに呼ばれていつもの美容師さんが私に営業向けの爽やかな笑みを向ける。その美容師さんは中学からずっとお世話になっている戸田勝海さんだ。戸田さんは人当たりが良く、美容院デビュー当時からの私の予約美容師さんだった。カットの腕も丁寧に思えるし、何より髪型の事を話している時にだけは営業向けの笑みを忘れてくしゃりと笑うそんな一面を見ていると、彼が本当にこの仕事が好きなんだという事が伝わって来て、妙に安心するのだ。
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