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「…孝之さんって変わってるよね。」
呆れたような美弥の声。
「普通、高2の男子が小1の姪と遊ぶために放課後、東京から1時間かけて通って来ないよ。
そんな時間があったら予備校に通うか、友達とゲーセンに行くかするでしょ?」
「そうかもな。でも、俺が美弥と過ごした時間はすごくピュアで、有意義な時間だったんだ。」
「そっか。じゃあ、私がこの世に存在する意味が少しはあったってことなんだね。」
それから、他愛のない思い出話をしているうちに、美弥の反応が遅くなっていって、やがて彼女は眠りについた。
俺はその柔らかい身体を抱きしめながら、眠れずにいた。
レゾンデートル。他人が認める存在価値ではなく、主に自分自身が求める存在価値。
この言葉を初めて知ったのは高1の時だった。
自分が篠ノ井の御曹司でなかったら、どれほどの生きる価値があるのかなんてことを悩み始めた頃。
たぶん、そんなことを考えることなく一生を終える人もいるんだろうが、俺は未だにそれを考えている。
そして、美弥もずっとそれを考えて生きてきたんだろう。
自分を堕ろしていたら両親はもっと幸せだったのに、とか。
捨てるぐらいなら産まなきゃ良かったのに、とか。
天真爛漫に見えて、この胸は痛みを知っている。
ぐるっとくすんだピンクの壁で囲まれたベッドの上で、俺は天啓を受けた。
これが俺の存在価値だ、と。
美弥を守ること。
自分のすべてを捧げて、彼女を幸せにするんだ、と。
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