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美弥は無事に第1志望の大学に合格して、東京で独り暮らしを始めることになった。
俺と同じマンションに住めれば一番いいのだが、美弥の家の経済状況ではコンシェルジュ付きの高級マンションに住むのは無理だ。
美弥が契約したのは、俺のマンションから徒歩5分の距離にある狭いアパートだった。
年頃の娘が住むにはどうかと思うような、セキュリティーのセの字もないようなアパート。
彼女をそんなところに置いておく気にはなれないから、出来るだけ俺のマンションに泊まらせようと思った。
泊まらせる口実をあれこれ考えたのに、それは美弥の方からあっさりと宣言された。
「もう信じられない。私がちゃんとまともな食事を食べさせてあげる。」
俺のキッチンを見るなり顔をしかめた美弥は、それから半同棲の恋人のように俺のマンションに来ては食事や俺の世話をして寝泊まりするようになった。
ほとんど使われることのなかったゲストルームが美弥専用の部屋となった。
美弥が作ってくれる料理はどれも旨い。
それはたぶん愛情がたっぷり入っているから。
男女間の愛ではなく、家族愛。
俺たちは叔父と姪なんだから、当然だ。
結婚は出来ないし、恋愛感情を持つことも許されない。
美弥にとって俺は恋愛対象外。
おそらくは父親の代わりに過ぎない。
「切ない溜息なんかついちゃって、らしくないな。
とんとご無沙汰だから、すべてを捧げたい女が出来たのかと思ったのに。もしかして片思い?」
カウンターの向こうから光貴が俺の顔を覗き込む。
最近は仕事が終わると美弥の待つマンションにまっすぐ帰っていたから、光貴の店に来るのは数か月ぶりだった。
今夜は美弥は大学の友達と女子会だ。
そうでなかったら、俺だってここへは来ない。
明るくサバサバした性格の美弥には友達が多い。
でも、その半数が男子だというのは気に食わない。
これから、未成年じゃなくなれば飲み会に行く機会も増えるだろう。
危機感のない美弥に酒と男の怖さを教えなければと考えていた。
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