エンジェル・フェイス

2/7
482人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
美弥と半同棲のような暮らしを始めて2年半。 当然、他の女と致す気になんかなれなくて、禁欲生活が続いていた。 美弥の前では聖人君子のフリをしていても、所詮は俺も健康な成人男性なわけで… 「は!…あっ…美弥!」 声を押し殺してバスルームで欲を吐き出す。 頭の中で美弥のあられもない姿を妄想する。 まさか、そんな声を美弥に聞かれていたとは思いもしなかった。 「孝之さん、ね、起きて。」 妙に艶めいた美弥の声で目覚めれば、俺を覗き込むように美弥が立っていた。 たわわに実った乳房の形がはっきりわかるのは、白いタンクトップの下がノーブラだから。 …朝からこれはちょっとヤバい。 最近の美弥は服装も仕草もエロい。 考えられるのは、男が出来たということ。 大学で誰か好きな奴が出来て、付き合い始めたとか? そして、あっという間に食われちまったとか? 問い詰めても否定する。 そして、確かに男と頻繁に連絡を取り合っている様子もなければ、デートしている様子もない。 まだ付き合っていないけど、気を引きたい男がいるということか。 そう思って観察したが、外出する時は今まで通りの身持ちの固そうな格好をしている。 休日に俺と外出する時も、普通の服装。だけど、腕を組んで胸を押し当ててくる。 やっぱり、俺を煽っているとしか考えられない。 美弥の試すような視線を感じるのに、欲情してしまう。どうしたって。 苦しくなって、隠し切れない気がして。 俺は時々、光貴の店に逃げ込むようになった。 「エンジェル・フェイス。」 そのカクテルを差し出しながら、光貴が名前を告げた。 グレープフルーツジュースのような色をした液体を口に含むと、アプリコットの甘味が広がった。 「天使の顔した悪魔ってとこ。」 光貴の声に、え?と顔を上げた。 美弥のことを言われたように感じて。 「口当たりが良くて飲みやすいけど、ジンとカルヴァドスが入っているからアルコール度数がかなり高い。 女を持ち帰るにはもってこいのカクテルだよ。」 酒で女を前後不覚にさせて、どうこうしようなんて考えたこともないが。 「天使の顔した悪魔、か。」 俺はもう一度、グラスに口をつけた。 まるで、このところの美弥みたいだ。 俺の気持ちにはさっぱり気づいていないくせに、男の本能を刺激する。 いったい、俺をどうしたいんだ?
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!