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自分はかなり理性的な男だと思っている。
惚れた女と一緒に暮らしているような状況で、ここまで自制できる男はちょっといないんじゃないかと。
タガが外れたら、一気に転げ落ちていく。
それがわかっているから。
叔父と姪が男女の関係になったら。…美弥を苦しめるだけだ。
人様に言えない関係。もちろん結婚も子どもを持つことも許されない。
美弥にそんな歪んだ人生を歩ませたくない。
愛しているからこそ、手が出せない。
美弥が俺を煽っているのは、興味本位だ。
俺に惚れて、抱かれたいと思っているからじゃない。
それは救いだ。でも、そうだったら良かったのにと思う自分もいる。
もしも、美弥が俺に惚れたなら、俺は自分の思いを遂げて、とことんまで堕ちていったかもしれない。
あの日、くすんだピンクの部屋で美弥を守ると誓ったのに。
俺はグラグラと揺れていた。
「手始めにロンドン。その後は、ヨーロッパを転々とすることになる。」
父が事も無げに告げたのは、それが篠ノ井を継ぐ者には当然だからだという頭があるからだ。
目を背けて考えないようにしていた現実を突きつけられて、俺は言葉を失った。
「最低でも7年だな。7年は海外暮らしだ。渡航前に結婚しておくのが理想だが、一時帰国の際でも構わない。」
”結婚”というフレーズに俺は顔をしかめた。
欧米は何かと夫婦同伴が求められる。
だから、父の言うことはもっともだ。それはわかっている。わかってはいるが。
「姪とは結婚できない。それは百も承知のはずだ。愛人にするつもりもないんだろう?」
父の口から出た言葉は、俺の人生で一番衝撃的だったかもしれない。
「な…にを?」
「わからないとでも思っていたか? おまえが子どものころから美弥に入れ込んでいることぐらい気づいていた。」
父が『美弥』と呼ぶのを初めて耳にした。
それは酷く冷たく聞こえた。まるで孫ではないかのように。
大体、”愛人”って何だ?
息子が、自分の孫を愛人にすると言うなら許してやろうとでも言わんばかりだ。
どこまで美弥をないがしろにすれば気が済むんだ?
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