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怒りが俺を突き動かした。
今までのらりくらりとはぐらかしていたが、開き直ることにした。
「わかっているなら話は早い。俺は一生、誰とも結婚しない。手に入らない女を愛しているから。」
父は無言で俺を睨みつけた。
「美弥以外の女を抱く気にはなれないから、子どもは作れない。それでは後継者として失格だというなら、別に構わない。俺のことも勘当すればいい。」
面と向かって父に歯向かったのは初めてだった。
ずっと俺はイイ子ちゃんで。
親の期待に応えようと自分を押し殺してきた。
でも、これだけは譲れない。美弥1人を想い続けることだけは。
「俊之と一緒だな。いや、おまえの方がタチが悪い。姪に惚れるなど。
まあ、いい。そのうち目が覚めるだろう。話は終わりだ。」
会長室から退出しながら、拳を握り締めた。
”そのうち目が覚める”だと?
覚めるわけないだろ。
どうやったら覚めるのか教えてもらいたいぐらいだ。
海外赴任のことは、しばらく美弥には言えないでいた。
なんとか日本に残れるようにと、あらゆる手を使ったがダメだった。
「4月からロンドンに赴任することになった。」
もうどうにもならないとわかって、やっと美弥に打ち明けた。
予想通り、美弥は俺を見つめたまま言葉をなくした。
声にならないような声がその小さな口から微かに漏れた。
「ウソ…」
「ごめん。」
「嫌だ。」
「ごめん。」
「イヤ。」
まるで恋人同士のようなやり取り。
でも、甘い気持ちには到底なれなかった。
胸が痛い。
美弥から離れなければならない痛みよりも、美弥を悲しませてしまったことが辛い。
ずっと守るつもりでいたのに。
「…一緒に来るか?」
それは、ここ数日ずっと考えていたことだった。
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