エンジェル・フェイス

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「無理…だよ。大学、あと1年ある。」 泣きそうな顔で美弥が俺を睨んだ。 「せっかく入ったのに中退は嫌だよな。」 コクンと美弥が頷いた。 予想通りの答えだが、結構キツい。 すべてを捨ててでも俺についてきてくれるかも、なんて期待した俺がバカだ。 女手一つで大学に進ませてくれた母親の苦労を思えば、美弥が中退という道を選ぶはずがなかった。 「何年行ってるの?」 「最低でも7年。」 「そんなに?」 「年に2回は帰ってくる。毎日Skypeで顔見ながら話せるし。」 「そっか。」 諦めたような声。 もしかしたら、父親だけじゃなくて俺にまで捨てられたような気がしているのかもしれない。 それだけは違うとわからせたかった。 「どうしても会いたくなったら、そう言えよ。仕事なんか放り出して、美弥のところに帰ってくるから。 俺も我慢できなくなったら、飛んで帰ってくる。」 「ホントに? 行ってすぐに会いたいって言っても?」 「俺はいつだって美弥を最優先にしてきただろ? とんぼ返りすることになっても会いに来る。約束する。」 「孝之さん、大好き!」 胸に飛び込んできた美弥をギュッと抱きしめた。 久しぶりの感触。こっちが泣きそうになる。 「俺も美弥が大好きだよ。世界で一番好きだ。」 「私も。」 おまえの”好き”と俺の”好き”は違うけどな。 それでも、ただの恋人じゃなくて良かったと思う。 日本とヨーロッパとの遠距離恋愛で、7年も耐えられる恋人同士はなかなかいないだろう。 でも、美弥と俺には絆がある。 決して切れない血の絆が。 出国する前の晩、俺は光貴の店に顔を出した。 「連れて行かないのか?」 「誰を?」 「美弥ちゃんを。」 「…卒業まであと1年あるからな。」 「卒業したら呼び寄せるつもりか?」 「どうかな。」 正直、何とも言えない。 美弥には美弥の人生がある。無理矢理ヨーロッパを転々とさせていいはずがない。
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