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「篠ノ井先輩、付き合って下さい。」
「悪いけど勉強に集中したいから、誰とも付き合う気はないんだ。ごめんね。」
高校2年の冬。
定番の中庭での告白を断って教室に戻ると、クラスメートたちが待ち構えていた。
「呼び出したのって、やっぱ、あの1年の子じゃん。OKした?」
「断ったよ。」
「もったいねえ! あんなきれいな子を振るなんて!」
口々にそう責められた。
きれいな子?
ああ、言われてみれば整った顔立ちをしていたかも。よく見もしなかったけど。
でも、それだけだ。
中身は金目当ての薄汚れた奴かもしれない。
俺は本当の純白を知っている。
だから、あんな女に惑わされたりはしない。
電車を乗り継いで、俺がいそいそと向かうのは天使の住む家だ。
今日は姪の美弥の7歳の誕生日。
1か月前から何をプレゼントしようかと店を探し回り、1週間前にようやく買った。
美弥は喜んでくれるだろうか?
あの満面の笑顔で『孝之さん、大好き!』と言って、抱き着いてくれるだろうか?
兄の家に行くと美弥は遊びに行っていて留守だった。
「そこの公園にいるはずだから、悪いけど呼んできてくれる? もうすぐご飯だよって。」
義姉は結構人遣いが荒い。
屋敷で『坊ちゃん』なんて呼ばれて使用人たちにかしずかれている俺にとっては、この人遣いの荒さも新鮮だと思えた。
通学カバンとプレゼントの袋を置いて、俺は近くの公園に向かった。
砂場にしゃがみこんでいるのは、美弥とその弟の涼介。
美弥は面倒見のいい子で、同年代の友達と遊んだり学校の宿題をやるよりも、弟の遊び相手になることに全力を注いでいた。
3歳の涼介は黙々とトンネルを掘っていた。
3歳のくせにものすごい集中力。
美弥のことは天使に見えるのに、涼介はそんな風に思えない。
それはたぶん涼介が自分の幼い頃にそっくりだからだろう。
「みやね!」
はしゃいだ声がしたと思ったら、砂場の横で男の子がドタッと転んだ。
ああ、あいつだ。雄大とかいう奴。
涼介と同い年の近所のガキ。
甘えん坊の泣き虫で、完全に名前負けしている。
美弥のことを『美弥姉』と呼んで、何かとまとわりついている目障りな存在だ。
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