上からのチカラ

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「お帰りなさい!」 成田で出迎えてくれた美弥は昔と同じように満面の笑顔で俺に抱き着いてきた。 帰ってきたな。 ようやく実感が湧いた。 「ただいま。出迎え、ありがとう。」 少し痩せた美弥の頬に軽くキスをした。 俺が急きょ日本に戻ることにしたのは、美弥が心配だったからだ。 風邪をこじらせて肺炎になりかかって入院までしたのに、俺には一言も言わなかった。 言ったら飛んできたのに。 海外赴任は最低でも7年の予定だったが、実際は7年で戻るのは不可能に思えた。 10年かそれ以上か。 ちょうどいい。そう思っていた。 こうやって年に2回だけ美弥に会って、あとは遠いヨーロッパの地から彼女を想っている。 そのうちに美弥は誰かと結婚したいと言い出すだろう。 だから、これぐらい離れていて、奪おうと思っても手も足も出ない状況にいる方が諦めがつく。 そう思っていたのに。 「もうずっと日本にいるんだよね? いつもの一時帰国とは違って。」 迎えの車の後部座席に並ぶと、美弥が確かめるように尋ねてきた。 「ああ、そうだよ。もうお土産を買って帰ることもなくなってしまうけど。」 バッグとかアクセサリーはいらないと言う美弥には、いつも化粧品を買って帰っていた。 それでなんとなく気づいてはいた。 美弥には恋人がいるんじゃないかと。 叔父とは言え、他の男からもらった物を身に着けることは彼氏に悪いと感じるのか、彼氏が嫌がるのか。 化粧品は消耗品だからいいのか。 その辺の感覚はよくわからない。女性と付き合ったことのない俺には。 「お土産なんかいらないよ。孝之さんが近くにいてくれる方がいいに決まってる。」 「じゃあ、いっそ俺のマンションで一緒に暮らすか? もう義姉さんに家賃を払ってもらってるんじゃないからバレないだろ?」 そんなことを聞いた俺は意地が悪い。 美弥は目に見えて狼狽えた。 それすらも腹立たしい。 「あのね、孝之さん。実は今まで黙ってたけど、私、付き合ってる人がいるんだ。」 美弥が申し訳なさそうに残酷な現実を突きつけた。
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