上からのチカラ

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「へえ? まさかあのアパートで同棲してるなんて言わないよな?」 「まさか。あのね、彼氏は仙台に住んでるの。遠距離恋愛。2~3カ月に1回会いに来てくれるんだけど、その時はうちに泊まるから…」 その晩はエッチしまくるから、俺とは住めないってことか。 恥ずかしそうに俯いた美弥を睨みつけた。 父親のせいで男性不信だって言ってたくせに。 でも、まあ同棲しているよりはマシだ。 俺が無理やり帰国してきたことが無駄にならずに済む。 「そうか。遠距離じゃ、彼女が入院してもなかなか駆けつけられないな。」 自分の受けたダメージを気づかれないように、さらっと言った。 遠くの彼氏なんかよりも、近くの叔父の方が頼りになるってもんだ。 「うん。それがわかっているから、なるべく心配をかけないようにって思っちゃう。あの入院のこと彼氏にも言わなかったんだ。」 「涼介には言ったのに?」 去年のクリスマス休暇の帰国は予定よりも早くて、美弥のアパートを不意打ちで訪ねたら男物の服やシェイバーを見つけた。 今考えれば、あれは彼氏のものだったのかもしれないが。 その時の美弥は弟の涼介のものだと言い訳した。 実は風邪をこじらせて入院した時に、涼介がしばらく滞在して見舞いに来てくれたのだと。 入院は結構心細くて寂しかったから、大学生の涼介を頼ったんだと言っていた。 「大学生じゃなかったら、涼介にだって言わなかったよ。でも、やっぱり家族だから。離れて暮らしてても家族は家族でしょ?」 それを聞いてほっとしたのは、俺自身もまた美弥の家族に準ずる立場だからだ。 恋人はいずれ離れていくが、家族は離れていても繋がっている。 美弥の彼氏が何人目の彼氏で、何か月の付き合いなのかは聞きたくもなかったが、どうせそのうち別れるだろう。 遠距離なんだし。 そう思っていた。
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