上からのチカラ

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「書斎で話そう。」 母を気遣ってそう言った父を押し留めたのは、他ならぬ母だった。 「いいえ。ここで話してもらいます。美弥って、俊之の娘の美弥のことですよね。」 どういうわけか篠ノ井の直系は気の強い女に惹かれるらしい。 母も祖母も美咲さんも美弥も気が強い。 おそらく父は俺から美弥を遠ざけようとして、美弥を退職に追い込んだのだろう。 仕事をクビになれば、美弥は故郷の笠井に帰るか、彼氏のいる仙台に行くという目論見だ。 俺は美弥を守りたかった。あの子の支えになりたかった。 精神的には支えになっていただろう。経済的な援助は美弥が許してくれなかったが。 彼女をそばで守ろうとした俺の行動が、逆に彼女を失業させることになってしまった。 これ以上、父に手出しはさせない。 美弥を守るためには父を糾弾して、釘を刺して、交渉するしかない。 「俺は姪である美弥を愛してしまったが、それが社会的に認められないとしても彼女を思う気持ちは止められない。 彼女を思うあまりに帰国を早めたことは、多方面に迷惑をかけた。それは反省しているが、それを逆手にとって成果を上げたのも事実だ。 それなのに、なぜ篠ノ井とは無関係の美弥を退職に追い込むような卑劣な真似をしたのか。それをあなたに問うている。」 「美弥を退職に? それは本当ですか。」 俺の美弥への思いを今、初めて知ったはずの母は、動揺することなく父を問い詰めた。 いや、父が気づいていたのだから、母だってわかっていたのかもしれない。
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