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「他の女を抱く気はしないから、結婚はしない。子供も作れない。このバカはそう言ったんだ。」
「それで俺から美弥を引き離せば、俺の心が変わるとでも? 6年前も同じことをしたのにまだわからないんですか。
ヨーロッパに飛ばそうが、何年も引き離そうが、彼女が他の男と結婚しようが、そんなことは無意味なんですよ。」
「孝之、おまえは篠ノ井をどうする気なんだ?!」
父の目は俺に縋っているようにさえ見えた。
ああ、俺は親不孝だな。
俺たち兄弟は揃いも揃って。
「もう世襲制をやめたらいいじゃないですか。それでよしとするなら、俺が後を継ぎます。誰にも文句は言わせない。そのかわり、俺の後継者は実力で選びます。」
グループ内には優秀な人材が埋もれている。
同族経営のせいで、無能な親族たちが役職に就いているからだ。
「そんな簡単にいくか!」
「行かせます。ここで膿を出さなければ、遅かれ早かれ篠ノ井は破たんする。それは父さんもわかっているはずだ。」
睨み合う父子を宥めるように言った母の一言は、まったくの想定外の言葉だった。
「美弥の子どもにその実力をつけさせればいいことでしょう?」
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