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ここが教会じゃなくて良かった。
まず思ったのは、そんなことだった。
美弥と腕を組んでバージンロードを歩き、他の男に美弥を託す役目を果たさなくて済んで良かったと。
おそらく涼介もそう思っていたことだろう。
東北の山奥の小さな村落の小さな神社。
美弥が生涯の相手として選んだ男と結婚式を挙げたのは、4月のよく晴れた日だった。
神社の裏手の日陰には、まだ雪が残っている。
薄暗い拝殿に現れた綿帽子姿の美弥は、涙が滲むほど美しかった。
その隣に立つ男は、世界一の幸せ者だ。
***
会社をクビになった美弥は同棲を始めるために、仙台の恋人のアパートに引っ越した。
ところが、その翌日に恋人の浮気が発覚したため、美弥は俺を頼ってきた。しばらく泊めてくれ、と。
その晩は、ワインに酔った美弥から赤裸々な話を聞く羽目になった。
恋人の山内が美弥の初めての男で、彼以外とはセックスしたことがないこと。
山内も美弥とスるまでは童貞だったこと。
山内が転勤族になる前は毎週末、夜通し求め合っていたのに、遠距離恋愛になってからは2~3か月に1度しか会えなくなっていたこと。
性欲の強い山内が2~3か月に1度だけで我慢できるのか。美弥以外の女を試したくはならないのか。そんな不安が常にあったこと。
遠距離の間、何度も浮気を疑う場面はあったが、それは誤解だったとわかってプロポーズにOKしたこと。
ところが、今日、部下の若い女性と一緒に歩いている山内と偶然会って、その女性が半年以上前から山内のアパートに入り浸っていたことがわかったという。
山内は浮気を否定したが、もちろん美弥はそんな言葉を信じてはいなかった。
バカな男だ。美弥を手に入れておきながら、その価値もわからずに裏切るとは。
憤りを覚えると同時に、これで美弥は男と別れて、また俺と一緒に暮らすようになるかもと期待する俺もバカだ。
たとえ、そうなってもそれは一時的であって、美弥にはまた恋人が出来て、いずれは離れていくだろう。
そうでなくてはならない。美弥が幸せになるためには。
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