紙の城

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「雄大!」 転んで泣き出した雄大に走り寄った美弥は、雄大の膝を確かめた。 「大丈夫。血は出てないよ。痛いの痛いの飛んでけー!」 真剣な顔でおまじないをかける美弥。 ”きれいな子”っていうのは、こういう子のことを言うんだ。 俺には美弥の背中に真っ白い天使の羽が見えたような気がした。 「美弥!」 泣き止んだ雄大が美弥にギュッと抱き着いたのを見て、俺は砂場に駆け寄った。 「孝之さん!」 俺に気付いた美弥が立ち上がって飛びついて来る。 何とも言えない高揚感。 俺の天使は軽くて柔らかくて美味しそうな匂いがした。 「美弥、誕生日おめでとう。」 チュッと頬に口づけると、美弥はくすぐったそうな顔で笑った。 「ケーキはね、学校から帰ってちょっとつまみ食いしたけどおいしかったよ。」 美弥が俺の耳に口を近づけてコソコソ話をした。 なるほど。彼女の美味しそうな匂いはケーキの匂いか。 美弥は品行方正のイイ子ではない。 結構、お転婆だし、気が強い。 弟の涼介や雄大に対しては、姉貴風を吹かせて偉そうにしている。 そんな美弥がゴロゴロと猫が喉を鳴らすように俺には甘えてくる。 それがたまらなく可愛かった。 雄大を家まで送ってから、兄の家に帰るとテーブルの上にはご馳走が並んでいた。 貧しいながらも、義姉の心尽くしの手料理だ。 みんなでハッピーバースデーの歌を歌って、ろうそくの火を吹き消した美弥に拍手して。 そんな幸せな家族の中に兄の姿はなかった。 美弥も涼介も『お父さんは?』とは尋ねない。いないことが通常運転だからだ。 娘の誕生日ぐらい家にいてやればいいのに。 どうせどこかの女の家にしけこんでいるんだろう。 兄の女遊びは酷くなる一方だった。 今年のプレゼントのリクエストは『お城』だった。 おままごとや人形遊びからは卒業しつつあったから、美弥がどんなお城を喜ぶのかかなり悩んだ。 子ども扱いするとむくれる。そんな表情も可愛いけど、やっぱり喜ぶ顔が見たい。 俺が贈ったのはペーパークラフトの城。 7歳児が1人で作るのは無理だけど、17歳が手伝ってあげれば出来る。
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