第4章 叔父と叔母の死

2/4
前へ
/29ページ
次へ
アヤにとっては最悪の演奏会を終え、数日が過ぎた頃、叔父と叔母が亡くなったという知らせが届いた。アヤの父親はたった一人の弟を失い、ひどく落ち込んでいた。アヤにとっては叔父と叔母の顔は知らないも同然だった。幼い頃何度か会ったことがあるとは聞いていたが、全くと言って覚えていない。叔父はバイオリニストで叔母はピアニストだった。世界をまたにかけるだけの腕がありながら、人前に出ることが苦手だと聞かされていた。いつも自宅で音楽を奏でていたという。 叔父は楽器をしっかりと手に触れた状態で、叔母はグランドピアノの鍵盤に手をのせたまま、ほぼ同時間に同部屋で亡くなったという。その死に顔はなぜか微笑んでいたと後から父から聞かされた。 アヤは落ち込む父が心配で、付き添いとして父親と一緒に叔父と叔母の通っていた病院へ向かった。二人ともうつ病ぎみだということでもう何年もこの病院に通っていたという。病院は古く、壁にはひび割れた箇所がいくつも見えた。門をくぐると、木々が茂り、噴水が少しだけ水を出していた。庭には車椅子の患者がぽかんと口を開け、空を眺めている。 「アヤはここで待ってなさい」父は言った。 「いやよ、私も行くわ」 一人残されるのが心細かった。父は頷くとアヤ肩をぽんと叩き、歩き出した。待合室でも父はずっと無言で下を向いていた。しばらくすると精神科の叔父と叔母の担当だったという医師が現れた。個室に案内され、二人はやぶれかけのシミのついた黄緑色のソファーに腰を下ろした。 「私が担当の伊藤です」その痩せた精神科医はうつむきがちに言った。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加