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引越しの当日、アヤは住み慣れた自宅を眺めながら庭でチェロを弾いていた。母が呼ぶ声がする。
「アヤ、そろそろ出発らしいわよ、早くしなさい」
「はーい」
アヤはチェロをケースにしまい、玄関を出た。この家ともお別れだ。
叔父と叔母の家はここから車で20分くらいの場所にあった。高校もレッスンも今までどおり通うことができる。こんなにも近い場所だとは知らなかった。引っ越し先の家は庭が広く、小さな池には鯉が泳いでいた。玄関は吹き抜けで螺旋階段が目の前にある。豪華というにふさわしい家だ。アンティークの家具がところどころにあり、部屋の雰囲気を落ち着かせていた。フローリングは綺麗にニスが塗られていて生活感はあまり感じられず、どこか小さなホテルのようだった。お手伝いの方がいたというのもうなずける。アヤはまだ誰も使っていなかったような日の良く当たる部屋に自分の荷物を下ろした。
そしてチェロを取り出す。
「明日はレッスン」
引越しの荷物が届き、人々の声が聞こえてきた。「手伝いなさいよーアヤー?」母の声が何度か下から響いていたが、アヤはいつしかレッスンに夢中になっていた。
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