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第6章 追求
久々のデートだった。デートと言っても午前中はいつも二人でチェロを弾く。時にコウダイはピアノで伴奏をする。初夏の風が吹き、辺りの木々達は皆緑色に輝いていた。時折小さな鳥がやってきてコウダイのマンションのベランダに止まる。
「これからどうしたい?」コウダイが弓を置くとアヤの頭に手を乗せて言う。
「だっていつも忙しいからゆっくりしたいんじゃない?」
「いや、アヤの好きでいい」
ぶっきら棒に、だけど優しく彼は言う。
「じゃあ、今からドライブできる?富士山の近くの湖とか…行けない?」
「夕方になるけどな」
「チェロもって行く?」
「いや…」
コウダイは困った表情を見せた。
「持っていってもいいわよ?」
「今日は置いてくよ」
彼は照れくさそうに玄関のドアを開けた。
真っ白な雲が流れ、少し離れた場所にある幼稚園から園児達の声が聞こえる。
プールにでも入っているのだろうか。楽しそうなその声は太陽を余計に輝かせた。
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